転校を成長のチャンスに! 『新しい出会いを活かして 転校を心理学する』著者・小泉令三先生へのインタビュー【前編】

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親の転勤に伴う転校。それ以外にも様々な事情で転校する子どもたちはたくさんいます。
「親の都合で振り回して、子どもに申し訳ない」「子どもが新しい環境になじめるか不安」という方も多いのではないのでしょうか。


転校は子どもにとって、人生のターニングポイントにもなる一大イベント。
不安な気持ちが先行してしまいがちですが、せっかくなら、転校という転機を成長のチャンスにしてほしい。
そんな想いで活動を始めたのが、「転校生支援プロジェクト」です。


転校生支援プロジェクト

今回は、『新しい出会いを活かして 転校を心理学する』(北大路書房、2002)の著者である小泉令三先生にインタビューをさせていただきました。


小泉先生のお話には、転校を成長のきっかけにするためのヒントがたくさん散りばめられています。
子どもの転校をひかえているすべての方に、参考にしていただけたら幸いです。


(インタビュアー:利根川 芙海、取材日:2022年2月10日)


小泉先生インタビュー

「自分で決めた」という気持ちが大事


―『新しい出会いを活かして 転校を心理学する』の中では、転校する側や受け入れ側、様々な立場からのアプローチが書かれていますね。まずは、転校生自身が苦労する点はどんなところにあるのか、教えてください。


まず1つは、転校先と今までの環境がどれくらい違うか、ということ。
環境の種類として、「ヒト・モノ・コト」って言いますよね。「ヒト」は学校の先生だったり友達だったり。「モノ」は学校の建物も違うし、使う道具も違うかもしれない。「コト」は習慣や文化。
こういった「ヒト・モノ・コト」での違いが大きければ大きいほど、転校生が新しい環境になじむのは大変でしょう。
それと、転校生自身の柔軟性のようなものとの関係で、苦労の度合いはだいぶ変わると思います。


―そうですね。環境の変化の度合いと、転校生自身の性格や素質によって変わってきますね。
それでは、転校生が意識しておくといいことってどんなことでしょうか?


これは親御さんの協力も必要になりますが、子どもなりに見通しをつけて心づもりをどれくらいできるかが大事です。
突然、「来週、転校だよ」と言われてまったく準備状況がないと大変。転校生自身が準備しておいた方がいいことはあると思います。


たとえば、今いるところでどんなふうに「さよなら」を伝えるか考えたり、新しい学校に向けてできる準備は何か、どれくらいできるかということを考えておかなきゃいけないですよね。


―だから1回目よりも2回目のほうがスムーズなことが多いっていうのもあるのですね。経験しているからイメージができる。


そうですね。大人だって一緒です。転勤が複数あれば段取りがわかってくるけど、最初が大変。それと同じですね。


―1回目の転校でも子どもに見通しを持たせてあげるには、親はどうすればよいのでしょう?


親は、「あなたも付いてきなさい」というのではなく、子どもなりに準備ができるよう配慮をしてあげるのがいいと思います。
子どもが自分で決められる要素があるんだったら、そこは任せて自分で決められるようにしてあげてほしいです。


学校選びにしても、国内であれば基本的に公立学校や私立学校という選択肢があります。
海外では、どんなチョイスがあるのかっていう情報を提供して、どうする?って聞きます。可能であれば、自分で決める選択肢を用意してあげるのが大事。
子どもなりに、“自分で決めたんだから”っていうその思いは必ず残ると思います。


―転勤族の方のお話を聞いていても、お子さん自身に学校を決めさせるという人もいました。


私もアメリカのシカゴに滞在したことがあったのですが、当時、中1と小3と幼稚園の子どもたちがいて。本人たちに行きたい学校を決めさせました。
そうしたら、下の2人は近くの現地校がいいって言って、でも長男は日本語がいいって、日本人学校に入ったんですよね。
こちらからはできるだけ調べて情報を提供して。3人とも同じところに行くと思っていたけど別だったので、「おっと、これは大変だぞ」とも思いましたけど(笑)。
1年で日本に帰ることは決まっていたので、下の子2人には土曜日に日本語学校にも通ってもらっていました。結構忙しい生活だったと思うけど、がんばってやっていましたね。


―学校を決めるのは難しくても、持っていく荷物や新しい家での自分の居場所などを決めさせてあげるのもよいそうですね。「本人が決める」ということを大事にしたいですね。


コロナ時代の転校生


―このコロナ禍で、転校生にとってはこれまで以上に困難な状況になっていると感じています。マスク着用の影響で会った人の顔が覚えにくかったり、慣れない土地の言葉が聞き取りづらかったりします。学校行事や交流の機会が減ったり、給食もみんなでワイワイできないので、子ども同士や地域との関係が築きにくく、放課後にお友だちの家に気軽に遊びにいくことも難しい(家庭により感染症への考え方も異なるため)と聞いています。
先生はこの状況についてはどのようにお考えになりますか?


今はいろいろなところで影響を受けていますよね。転校生にとっても大変だと思います。


でも逆に、そういうことが苦手なお子さんにとっては安心するところがあるかもしれませんね。推測ですが、こういった状況ならゆっくり馴染んでいけるということもあるかもしれない。


―たしかに、最初から積極的な交流が苦手なお子さんなんかだと、この状況は過ごしやすいかもしれないですね。そこは盲点でした。苦労もあるけど、心が落ち着くというのもありそうですね。


行事の日程が短縮されて参加しやすいと感じたり、慣れない場所ではマスクをしているほうが安心するというお子さんもいらっしゃいます。


―学校での行事のお話も出ましたが、コロナ禍に限らず、受け入れる側の先生や周りで気を付けておきたいことはどんなことでしょうか?


転校生側の立場の理解をどれくらいできるか、そこに尽きると思います。
受け入れる先生自身が転校の経験があればいいけど、そんな先生ばかりではないですよね。
それでも、転校生は大きな環境の変化を経験しているんだ、ということをよく認識する必要があります。


わからないことはないか気にかけてあげたり、サポーターとなるような人をつけてあげたり。


今回「転校生支援プロジェクト」でつくられた「転校パスポート」のようなものは受け入れ側の先生方にとって、とても参考になると思います。


―ありがとうございます。転校生支援プロジェクトで「転校生にどのような支援が必要ですが」とアンケートをとった際に、「受け入れてくれる学級の先生に転校生のことを気にかけてもらいたい」というご意見が多かったのです。そこから試行錯誤しながら作ったので、小泉先生にそのようにおっしゃっていただけますと大変ありがたいです。


たとえば病気のときでも、自分の症状や経過をメモして病院の先生に渡せば、どんな状況かすぐに伝えられますよね。
それと同じで、転校生自身の特徴やこれまでの転校履歴など、口頭で伝えようとしたら結構時間がかかるものを、“パスポート”という形で書いてあれば短い時間で情報を伝えることができます。
それを担任の先生だけじゃなく、学年の先生や保健室の先生にも共有してぜひ活用してもらいたいですね。


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日本では、転校を経験する子どもたちやその家族は意外と多いのに、そこに対する研究や支援はあまりされていないのが現状です。
そんななか、転校生を対象とした貴重な研究結果をまとめ、転校する側にも受け入れ側にとっても大切な心構えを教えてくれている小泉先生。
ご自身の研究や実体験を踏まえたお話はとても参考になりますね。


後編では、小泉先生が転校生の研究に取り組むことになった経緯や、この「転校生支援プロジェクト」についてのご意見を、さらに深堀してお聞きしていきたいと思います!
(→後編へ続く)


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【小泉 令三(こいずみ れいぞう)先生プロフィール】
プロフィール
専門は教育心理学、学校心理学。
1955年福井県生まれ。大阪大学理学部卒業後、福井県の公立小・中学校で教員として勤務。
教員をしているなかで教育についてもっと深く研究したいと思い、兵庫教育大学大学院学校教育研究科修士課程、広島大学大学院教育学研究科博士課程前期を修了。
『新しい出会いを活かして 転校を心理学する』(北大路書房)、『地域と手を結ぶ学校-アメリカの学校・保護者・地域社会の関係から考える-』(ナカニシヤ出版)他、著書訳書多数。
2022年4月より福岡教育大学名誉教授。
転校に限らず、入学や就職などの環境の変わり目で、新しい出会いを活かして欲しいと願っている。現在は、人と関わる力を育てる「社会性と情動の学習」の研究と実践のサポートを行っている。



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