「生き方いろイロ 転勤トイロ」vol.3 中川ユリさん 10年間で7回引っ越した私が定住を決めた理由【後編】

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中川ユリさん

10年の転勤生活に終わりを告げ、富山への定住を決意した中川ユリ(なかがわ・ゆり 仮名)さんへのインタビュー。
前編では、転勤生活を振り返りながら【家族】【柔軟】【正直さ】という大切にしている3つの価値観についてお話しいただきました。


(前編はコチラから)


自分自身が追い詰められての判断だった、という定住の決め手とはいったいどんなものだったのでしょうか。
後編では、中川さんご一家が転勤族をやめ、定住に至るまでの道のりを聞かせていただきます。



安心できる心のよりどころを守るため


転勤族が定住を考えるとき、そこには大きなきっかけや決め手となる出来事があるはずです。
仕事復帰や子どもの進学のタイミング、両親の介護…etc.


中川さんも、この決断を下すには大きなエネルギーが必要だったと振り返ります。


「人って現状維持したいから、すごく負荷のかかることがないと大きな行動はしないじゃないですか。
私の場合はそれが“家族”というものを守ることだったんです。


家族みんながそれぞれの環境でがんばって、家に帰るとホッとする。そんな場所になるように環境を整えることが私にとってはとても大切なこと。
それを守りたくて、夫に転職をお願いしたっていう経緯があるんです。」


家族

思い切って旦那さんへ転職をお願いした中川さんでしたが、そこには大きな葛藤もあったそう。


「今の仕事を辞めてって言うのにはすごく抵抗がありました。私があと1、2年我慢すればいいと思っていたから。
でも、後になってきっと後悔すると思ったんです。あの時ああだったから辛かったって、夫のせいにもしたくなかった。働き方が選べるなら、誰かが犠牲になる働き方じゃダメだと思ったんです。」


今のままの生活を続けていたら、自分がつぶれてしまう。自分がしんどいと、家族みんなにその空気が蔓延してしまう…。


そんな思いを抱えながら、追い詰められての判断だったと話す中川さん。


「ネガティブでしょ(苦笑)。でも、追々子どもたちにどうしてここに住むことにしたのかって聞かれたら、ありのままを話そうと思っています。子どもたちに説明できないようなことはしない。そんな正直さも大切にしていきたいんです。」


中川さんはネガティブと言うけれど、一家にとって「定住」は家族みんなが幸せでいるための前向きな決断だったのです。



10年間の転勤生活を振り返って


転勤生活

頼れる人がいない中での子育てや、家庭と仕事との両立。
転勤族だからこその大変さ、難しさを経験した一方で、転勤生活で得られたものもたくさんあると中川さんは言います。


「引っ越しが多い分、家選びや家具・家電選びの目はだいぶ鍛えられましたよ。これから家を建てるとなったときにも役立ちそう。
いろいろな土地での思い出もできて、ニュースなどで地名を耳にすると懐かしくなったり、興味を持つ場所が増えたのはうれしいですね


新しい環境で新しい関係性を築いていくのは充実感を得られたし、私にとっては楽しいものでした。
だから、夫に転職をお願いしたときも、とくに転勤の有無は問題にしていなかったんです。でも、夫としては転勤が家族に負担をかけていると感じていたみたいで。結果的に転勤族をやめることになりましたが、転勤自体が嫌だったわけじゃないんですよ。」



これからは、家族みんなでここでの生活を楽しみたい


こうして中川さん一家は転勤族をやめ、実家から遠く離れた富山で暮らすことになりました。
でも実は「場所」にはそこまでこだわりがなかったそう。


「どうして富山にって言われると、難しくて…。転勤生活の中で半分以上の時間を過ごしていたのが富山。“慣れ”があったというのと、タイミングですかね。暮らしていて嫌なところがないんです。


実家の近くっていうのは特に重要視していなくて、いかに夫婦で助け合っていけるかっていう方が大事だと思っています。」


旦那さんが土日休みになって、平日帰ってくる時間も早くなったことで、中川さんが得られたものは大きいと言います。


「みんなで夜ご飯を一緒に食べるとか、休日に一緒に出かけられるっていうのは本当にうれしいです。今までは近くの公園に行くこともできなかったから。
土日にみんなで買い物に行くのがちょっとしたイベント。幸せです。」


富山に来て丸5年。ほとんどの時間を家のことと子育てに費やしてきた中川さんですが、これからはもっと富山を楽しみたいと話してくれました。


「失われた5年間じゃないけど…(笑)これから富山で暮らして、子どもたちにとってはここが地元になっていくんですよね。そう思ったら、もっと富山のことを知っていきたいし、子どもたちにいろんなところを見せてあげたいなっていう気持ちがむくむくと湧いてきて。」


でも一方で、定住することに対してあまり気負いはないのだそう。


「一生ここに住んでもいいという思いで定住を決めたけど、また変わるべきときが来れば変わってもいい、ぐらいの気持ちでいます。そんな柔軟さはこれからも大事にしていきたいですね。」


これから、お子さんの進学や定住する家探しも控えている中川さん。まだまだ変化や心配事は尽きないですが、大きな重荷を一つ降ろした軽やかな表情が印象的でした。


「腹をくくったら、なんでも物事を前向きに考えられるようになりますね。
転勤族のときは、ずっと住むわけではないし地域と深くかかわる必要もないかなと思っていましたが、ここに住むってなったら、もっと地域の人とのかかわりも持ちたいと思うようにもなりました。
家族みんなでいろいろな経験をしていきたいな。これからがすごく楽しみです!」


家族みんなで

転勤族の楽しさも辛さも味わった上で、「家族で一緒に過ごす時間」を最優先にして選んだ道が、結果的に定住となった中川さんご一家。
何を優先するか、どんな暮らしをしたいかで、働き方も生活していく場所も柔軟に変えていっていいんだなと思えるお話でした。
帯同し続けるか、いずれは単身赴任か…悩める転勤妻のみなさんにも、また別の選択肢として参考になったのではないでしょうか?


最後に、転勤妻のみなさんへのメッセージをお願いします!


「転勤にいつまでついていくの?って、みなさんが悩むことだと思うし、転勤族が定住だったり単身赴任を決めたきっかけを知りたいと思うんです。
私の場合は、『ここが好きだから定住しました~!』っていうポジティブな経緯ではないけれど、悩んだ末に夫の転職、定住を選んで、得られたものは本当に大きかったです!
私の体験談が、かつての私のように悩んでいる転勤妻のみなさんの参考になればうれしいです。」


このまちのお気に入り
【1日の始まりに見る眺め】
定番ですが、立山連峰の美しさは富山ならではのお気に入りです。日々、違った景色を見ては雄大さに圧倒されたり、癒されたりと影響を受けています。
玄関を出ると立山連峰が見えるので、よし!今日も一日がんばろう!と思えます。
▼中川さんお気に入りの景色
日常の中の立山連峰
日常の中にある立山連峰


インタビュー・文:あずま るに / ライター / 焼き菓子のお店única(ウニカ)店主


※あずま るにプロフィール:東京出身。お菓子作りの夢を追って富山に来たのが7年前。農家でのお菓子作り、富山県移住相談員を経て、第一子の育休中にフリーライターに転身することを決意。店舗を持たない小さな焼き菓子店との“二足のわらじ”に挑戦中。
生粋の富山男子である夫、3歳と0歳の娘たち、甘ったれ茶トラ猫と暮らしています。

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